寮内ハロウィン祭りのお知らせ


「ごろ〜くんv TRICK or TREAT☆」
「おぁ!?」
コーヒーを買っていると、後ろからアメフト並みのタックルを食らわされて、危うく自販機に突っ込みそうになった。

「と〜〜〜し〜〜〜や〜〜〜〜!」
怒りを込めて振り向くと、そこにはニコニコ笑ってる・・・・ ・・・・。


(・・・何だこいつ??)


そこにはオカッパ頭の、膝丈の短い白い着物に青いちゃんちゃんこを着た寿也がいた。足元は10月だというのに、素足で草履を履いている。
「・・・え〜と、トチ君・・・それナニ?」
寿也は頬を少しふくらませて、腰に手をやる。
「も〜!吾郎君。今日、寮内ハロウィン祭りがあるから、皆仮装するようにって、ロビーの掲示板に紙張られてたでしょ〜!忘れたの?」
「え!?そうなのか!?・・・それで寿也は、何の仮装なんだ?」
「これ?やだな〜吾郎君。座敷わらしに決まってるじゃないか〜。」
そう言うと、見て見てと言う様に、くるりと回った。

「えええ!?それってOKなのか!?ハロウィンだろ!?」
「いいんじゃない?一応おばけだし?」

(いやいや、それ妖怪だろ!?)

「人を脅かすって所じゃ変わらないでしょ。」
「座敷わらしって別に怖い奴じゃないんじゃ?」
そう言うと、寿也はカッと目を見開いた。

正直、その寿也に俺はびびった。

「甘いよ!吾郎君!!」
「え?え?」


寿也はふっと笑うと、昔を懐かしむように目を細めた。
「昔僕がおばけが怖いって寝付けない時があって、その時おばあちゃんが座敷わらしの話しをしてくれたんだ。


『大丈夫よ寿也。寝てるときに音を立てたり、飛んだり跳ねたり笑ったり、時にはこっそり顔を覗いたり、ちょっといたずら好きの子供のおばけがいてね。だけど怖くないのよ。その子は幸せを運んでくれるし、子供が好きで、もしかしたら寿也とも遊んでくれるかもよ。』


っておばあちゃんは安心させようと言ってくれたけど、逆に僕はその日一睡も出来なかったよ・・・。だって、いくら幸運運んで来るって言ったって、夜中ふと目を開けたら、子供が覗き込んでたって考えると・・・怖いよね・・・。」

寿也の話しで、思わずオカッパの子供が自分をジッと見下ろしてる想像をして身震いする。
「寿!やめろよ!今夜寝れなくなるだろぉお!」
「大丈夫v どうせ寝かせないからv」
「え?今なんt・・・」
「それより吾郎君。ベットに置いてた僕が作った衣装どうして着ないの?」
(・・・今さえぎられた?)
「何でって・・・。」

今朝起きると、枕元に綺麗にたたまれた服があった。ご丁寧に『吾郎君、これを着てねv 寿也』とメッセージカードを添えて・・・。

「〜〜〜!あんなの着れるわけねえだろお!!!腹は出てるし、肩は出てるし、オマケに何だよ、あの股下ギリギリのショートパンツは!!!」
「小悪魔衣装だよ。尻尾と角と羽も一緒にあったでしょ?絶対吾郎君似合うよv」
うふふと笑う寿也を尻目に、あの黒いツヤのある衣装を着た自分を思い浮かべた。

180cmもある、しかも十分に鍛えた筋肉質な肩と腹と太もも(膝下からは黒のロングブーツ)を出して、悪魔の尻尾と角と羽をつけて歩く俺・・・。
一瞬にして鳥肌が立つ。
(死にたい・・・)
大体、自分よりムキムキなくせに線の細い寿也が着るならまだしも、自分がなんて絶対にイ・ヤ・ダ!!!

「俺のあんな格好誰も見たくねえだろ!!」
「見たいよ。僕が。」
間髪入れずに、オカッパ頭の寿也が真顔で言う。


(色んな意味で怖ええよ寿!!!)


「ね〜。いいでしょ?僕、あれ作るのにすごく苦労したんだよ?今日は無礼講だって監督も言ってたし、あの眉村だって魔女の格好してるよ?」
「魔女!?マジで!!??」
(それはちょっと見たいような、見たくないような・・・)
「どうせ眉村も作らないだろうからって、米倉が作ったんだって。ちゃんと文句言わずに着てるよ。」
(さすが眉村だぜ・・・。つか米倉作かよ!でも・・・)


チラッと窓の目をやると、外は熟れた果実のような真っ赤な太陽がグラウンドを照らしていた。
だけどこの季節の夕焼けは短く、もう空の片隅には薄い青が混じり始めていた。

(今ならまだもう少しトレーニングができる・・・)

ジュースを買いに来たのも、ほんの少し休憩するだけで、寿也にタックルされなければ今もグラウンドにいたはずだ。

窓の外に目線を預けたまま、ぽつりと言う。
「悪い。やっぱ俺まだ・・・」
トレーニングをすると言おうとした瞬間、グイッと両頬を挟まれて、顔を強引に寿也の方に向けさせられた。


「だめ!!今日はもう休み!」

思いのほか真剣な目で寿也が俺を見つめている。
「寿?」
「・・・僕は君を応援する。吾郎君が海堂出てくって決めたなら・・・止めないよ。でも、だから一緒にいれる今を大切にしたいんだ!たくさん、吾郎君と思いで作りたい。きっと監督も僕と同じだよ。ずっとトレーニングしてる吾郎君を見て、それだけじゃなくて、もっと皆と一緒に笑ったり話したりして欲しくて、こんなイベントやったんじゃないかな?」

言われてみれば、最近寿也とゆっくり過ごした記憶がない。寮の連中ともグランドで話したりする以外やっぱり記憶がない。
なにしてたかって考えると"トレーニング"としか頭に出てこない。重症だ。

「・・・ごめん、寿。」
素直に謝ると、寿也はにこっと笑う。俺の好きな笑顔だ。
「吾郎君は本当に真っ直ぐだね。だけど無茶はだめだよ?」
「うん。」


「ところで」
「ん?」
また寿也が笑う。・・・今度のは何か企んでる笑顔だ。

「TRICK or TREAT!お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞv」
「!!」
「さぁ、出しなよ。ふふふ。でも吾郎君ならイタズラがいいなぁ〜。」


(寿也め!最初からこれが狙いか〜〜!!!)


当然トレーニングを中断して来た俺が菓子を持ってるはずがない。かといってこのまま寿也のいい様にされるのも悔しい。

「あ、これやるよ。」
さっき買ったコーヒーを差し出したが、寿也はチラッと見て口を尖らせる。
「却下!それ甘くないし。」
「いいだろ別に!」
「だめ。」
(この甘党が!)
仕方なく、寿也が好きそうなジュースを買おうと、ポケットを探り小銭を出したが、ちょうど100円玉がなかった。

寿也がニヤニヤ笑っている。
「ふふ、吾郎君観念しなよ。部屋に行こっかv」
その勝ち誇った顔が憎らしくて仕方がない。


「!!〜〜〜!あっ。」
「?」
ふと思いついて、缶を開けてコーヒーを口に流し込む。
そのまま俺の行動に首を傾げて、事の成り行きを見守っていた寿也の顎を捉えて唇を塞ぎ、思いっきりコーヒーを流し込んでやった。
「!!??」
まさか俺からこんな事をするとは思ってなかった寿也は、いつもの余裕が吹っ飛んで目を大きく見開いている。

(へへ、ざま〜みろ!)

寿也がコーヒーを飲んだのを確認して、腰に回る手を払い除け距離をとってニカッと笑ってやる。


「寿君、甘かった?」
「〜〜〜甘かったよ。ねえ吾郎君もう一回しない?v」
その言葉を無視してくるっと反転すると、部屋に向かって歩き出す。

というのも、さっき自分がやった事が急に恥ずかしくなって寿也の顔が見れなかった。
(俺なんて事してんだ〜〜/// 夕焼けで良かった・・・絶対顔赤い)


「吾郎君どこ行くの?」
後ろから寿也も笑いながら着いて来る。
「部屋」
「じゃあ部屋でさっきのしよっか。」
「しない!///」
「じゃあ何で行くのさ。ホールに行こうよ。」

振り返ると寿也とまともに目が合った。
「何でって、服は着ないけど、尻尾と角と羽取りに行くんだよ。仮装しないと駄目なんだろ?」
寿也は意外だったらしく、目をパチパチしたからふわっと笑った。
「うん。じゃあ一緒に行こっか。」

****

薄暗くなった廊下を手を繋いで歩く2人。
遠くでワイワイとはしゃぐ声が聞こえる。
「吾郎君やっぱり衣装着ていかない?」
「絶・対・着ない。」
「でも一生懸命作ったし・・・部屋の中だけでいいからさ、終わってから着てみてよ。」 「ん"〜〜〜、部屋の中だけなら・・・。」
「本当!?やったねv ささ、早く羽とかつけて皆の所に行こ♪」
「???うん」

吾郎は知らない。
高い条件を低くすることで、それならいいよと言ってしまう人間心理を。
吾郎は知らない。
本当の目的が、最初からそれだった事を。


***


なんとか間に合いました^^;
眉村が何かネタキャラ的存在になってきた気がしますが
気のせいでしょう



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