未知との遭遇



今日は吾郎先輩の誕生日。
家族以外の誕生日を祝うなんて、この人に会うまで思いもしなかった。

チラッと隣に並ぶ、自分より少し(と言い張る)背の高い吾郎を大河は盗み見る。
吾郎は手に大荷物を抱えながらも、上機嫌に鼻歌なんぞ歌っている。
そんな姿に嬉しくなる。
(あ〜あ・・・これで先輩と2人だけでお祝いだったらな〜・・・)



それは数時間前にさかのぼる。
今日部活終了後、家に帰ろうと準備をしている吾郎に、大河は声を掛けるタイミングを計っていた。
というより、今日一日中ずっと祝いの言葉を言おうと、2人きりで誰にも聞かれない瞬間を狙っているが、人気のある吾郎の周りには常に人がいる。
今も部室にダラダラ残っているメンバーと笑いあっている。

(早く言いたい・・・けど、聞かれたくない・・・。)
吾郎に淡い想いを抱いている自分としては、やっぱり2人で祝いたい。
プレゼントも前日ギリギリまで悩んで買った。

だが、吾郎とメンバーとのくだらない話しはまだ続きそうで、仕方なくいつもの様に声を掛ける。
「吾郎先輩。一緒に帰りましょうよ。」
「おう。帰るか。」
何とか2人きりになれるのを密かに喜びながら、軽くメンバーに挨拶して部室を出る。
さっそく言おうと周りの気配をさぐる。


この時の自分は、今思えば焦っていたとしか思えない。
どうせ2人で帰るんだから、部室を出てすぐじゃなく、校門ぐらいまで行けば良かった。
今更言っても遅いことだけど・・・。


「先輩あの・・・。」
「ん?」
言うとなると妙に緊張してくる。平常心、平常心だ俺!
「今日先輩誕生日ッスよね。おめでとうございます!!」
言ってから先輩の反応が気になって気になって、心臓が破裂しそうだった。

吾郎は軽く驚いて、それからすぐに太陽のような笑顔になる。
「大河知ってたのか!?センキュー!」
頭をぐりぐりかき回してくる吾郎に、こっちも嬉しくなる。
「それで、実はプレゼントが。」
「マジで!?」
鞄からいそいそと取り出し、綺麗にラッピングした袋を手渡そうとした瞬間、部室のドアが勢い良く開いた。

「あれ?茂野に清水、お前ら帰ったんじゃなかったの?」
藤井がまだ部室の前にいる2人をキョトンと見た。
俺はプレゼントを手渡しかけたまま固まった。


(ヤバイ・・・・しかも藤井先輩だし・・・頼むから・・・・)


「お?何だそれ?」
案の定、藤井はラッピングされた袋に目を止めた。


俺の背が吾郎先輩ぐらい高くて、力があれば、その時吾郎先輩の口を塞いで連れ去りたかった。


「ああ!俺今日誕生日なんだ〜!それで大河が祝ってくれてさ!」
うきうきと話す吾郎先輩。
そして・・・・。

「おおお!そうなのか!?よし!茂野!!俺らも祝ってやるぜ!!田代とか他の奴呼んで、パーッとさ!」
「そうか?あ、そうだ、今日家でもお祝いしてくれんだけど、お前らも来るか?」
「すげーー!茂野邸か!?じゃあ突然だし、何か買いこんで行くか。」
そして藤井は部室内に向かってでかい声で叫ぶ。
「おい!田代!今日茂野誕生日だって!残りメンバーも暇な奴呼ぼうぜ!」
「おいおい!そんなに大勢来るのか?かあさんに連絡しねーと。」
そういいつつ嬉しそうに電話をかけだす吾郎。
あっという間に藤井と吾郎は、大河が口を挟む間すらない弾丸トークで、この後の予定を決めてしまった。


(俺のプランがあぁああーーーーーーー!!)


そんな大河の心の叫びは誰にも届かなかった・・・。



そんな事を遠い目で思い出しながら、それでも今吾郎と2人だけの空間を楽しむ。
「それにしても、主役に買い物袋押し付けるって、どういう気ッスかね〜先輩方は。」
「ああ、何かあいつら用意があるとかなんとか言ってたぞ?」
「用意ってなんスか?」
「・・・・さぁ?」
つかの間おもいおもいに用意が一体なんなのか想像する。
ろくなことなさそうだ。


「・・・吾郎先輩。」
「ん?」

(さすがに怪しいかな・・・)

「なんだ?大河?」
黙ったままの俺の顔を覗きこむ。

(−−−−−言ってしまえ!)

「あの、荷物もうちょい持ちますんで、手・・・繋いでくれませんか?」

(うわぁ〜、絶対引かれるよ!!)

言ってしまってから激しく後悔する俺を、吾郎先輩は首をちょっと傾げてから、頭をガシガシかく。
それから固まってしまった俺の腕の中に、荷物をこれでもかと言うほど載せてきた。

「ちょっと!先輩少しって言ったでしょ!」
「うるせ〜!体力作りの一環だ!」
そう言いながら、俺の手を繋いで歩き出した。
「俺なんかと手繋いで嬉しいか?男だぞ?」
自分を受け入れてもらって、少し自信が湧く。
「嬉しいッスよ?吾郎先輩なら。」
そう言うと、吾郎先輩は顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。

(かわいいな・・・)

こんな事を素で思ってしまう自分はもう末期だと苦笑する。
「照れました?吾郎先輩?」
クスクス笑うと、ムッとしながら「うるせ〜・・・」と小さく呟く。
繋いだ手から自分の想いが伝わればいいのにとか、乙女な事を思っていると吾郎先輩の口から嫌な名前を聞いた。

「まったく、何で寿也といい大河といい、人をからかうっていうか・・・。」
「・・・佐藤先輩とも手、繋ぐんスか?」
思いのほか口調がきつくなってしまったけど、先輩は気にしない。
「え?あ〜・・・まあ・・・。」
「そうッスか・・・。」

さっきまで幸せだった気分が一気に萎んだ。
吾郎先輩は佐藤先輩とも手を繋ぐんだ。俺だけじゃない。

時折吾郎先輩の口から"寿也”の名前を聞く。

佐藤寿也。
吾郎先輩の幼馴染で、泣く子も黙る海堂の4番、横浜リトルのOBでもある。
自分に厳しく、努力を怠らない、家事が得意で手先も器用、女に優しい、おまけに頭もいい。
それから、吾郎先輩の恋女房。あいつはすごいと吾郎先輩は言う。
だけどこれだけ知っておきながら、実際に会って話したことはない。


でも会わなくても唯一わかるのは、佐藤先輩も吾郎先輩を好きだと言う事。


(でも負けないスよ。)


1人宣戦布告をしていると、ふと2本前にある電柱の影からピンクの何かが見えた。

(?)

吾郎先輩は気づいてないみたいだ。
何だか急に虫の知らせのような悪寒がする。

「ちょ、ちょっと先輩ストップ!」
「どうかしたか?」
訝しげに尋ねてくる先輩を道の端に寄せる。
「ここに居てください。絶対居てくださいよ?」
「お、おう。」
この悪寒に根拠はないが、吾郎先輩を先に進めてはいけない気がする。

俺はそろーりと、先ほどチラッと見えたピンクの何かが潜む電柱の影を覗くと、男が1人隠れていた。
しかもただの男じゃない。


(え・・・・えーーーーーー!!!何やってんの!?この人!??)


男は頭にピンクの大きなリボンを着けている。
いや、百歩譲ってそこは個人の趣味、あるいはお洒落として見る事にしても、それをやっている男の正体がいけなかった。

それはさっきまで、心の中で宣戦布告をしていた佐藤寿也だった。

もう少し近づくと、何かブツブツ言っている。
『吾郎君まだかな・・・。僕がプレゼントなんて、びっくりするかな♪ふふ』


(ビックリどころじゃねえよ!!吾郎先輩!!この人危ないですよ!!!)


俺は来た時と同じようにそっと離れて、吾郎先輩の元に戻った。
それから先輩の腕を掴むと、強引に来た道を引き返した。
「お、おい。何で戻るんだよ!俺の家もうそこだぞ!?」
「静かに!むこうは危険です!」
「何が!?」

引っ張るように逆方向に向かう中、つい質問してしまう。
「先輩。佐藤先輩って・・・・すごい人なんですよね?」
吾郎先輩は頭にハテナマークつけながら素直に答える。
「ああ、あいつは最高の恋女房だぜ?」
今までならこの言葉に激しい嫉妬を抱いていたけど、今は違う。
「本当にですか?俺に胸張って紹介できますか?表面上は優秀でも、実は・・・ってのないですか?」

「・・・・ ・・・・う〜ん・・・多分・・・紹介できる・・・かなぁ?」

この日俺は誓った。
何があっても絶対に、絶対に!あいつから吾郎先輩を守ると!

もちろん佐藤寿也の華麗なプロフィールは、この日をもって大河の中で“変態”の一文字だけになったのは言うまでもない。


***

まず本気で出遅れた吾郎誕生日SSのつもりが
全然祝ってないという事実!!
次にトシゴロサイトのくせに大河が出張ってる事実!!
最後に寿也が完璧に変態になってしまった事実!!
本気ですまんかった 反省はしてないw

タイトルからしてお祝いSSじゃない事に気づきました
仕様です


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