「愛しさと憎しみは表裏一体なのですよ」
吾郎くんがいなくなった。
あまりにも突然で、僕は監督の言葉を疑った。
「何でも父親のトレードで転校したそうだ。知らなかったのか佐藤?」
知らない。
僕は吾郎くんの何も知らなかった。
その後、急いで吾郎くんの学校に向かった。
当然吾郎くんの痕跡は何もなかった。
吾郎くんがまたいなくなった。
4年後・・・
友ノ浦の練習を途中で抜けて、今度対戦する文化台の試合を見に行った。
相手は三船東中、まったくの無名校だ。
まあ、予想では文化台だろうけど、どちらが勝ち残っても今の友ノ浦が負ける相手ではない。
そう高をくくって試合を見に行て足が止まった。
(10対0!?)
見れば三船東のサウスポーのピッチャーが異常に早い球を投げている。
(何者だ!?)
双眼鏡を取り出しピッチャーの顔に照準を合わせて、そこで自分の目を疑った。
(本田・・・・吾郎くん!!!???)
双眼鏡を持つ手が震えた。
吾郎が肩を壊した記事を知っている。
もうグラウンドで会うことも、普通に生活していても、再会できるとは思ってなかった。
ふいに4年前の記憶が蘇った。
あの時監督から転校を聞かされた絶望を。
憧れて憧れてやまなかった。吾郎くんが目標だった。それが何も言わずいなくなった。
悲しくて、悔しくて、憎らしかった。憧れた分だけ一層。
「ふふふ・・・」
知らず知らず笑いが込み上げて来た。
それは決してクラスメートやチームメイトに絶対向けない笑みだった。
「帰ってきてたんだね。吾郎君。」
(君はもう僕の憧れなんかじゃない。僕は君を倒す!)
その日から友ノ浦中の練習は益々ハードになった。
「おい、寿。お前文化台の試合見てきてからちょっと変じゃないか?」
倉本が心配そうに話しかけてくる。
「そんな事ないさ。ただちょっと試合を見て、やる気が前より出たって感じだよ。」
そう言いニコリと笑った。
「そ、そうか?」
「そうそう、今は次の試合に集中集中!」
倉本の背中を思いっきり叩いて、ピッチャーと投球練習に汗を流していると、フェンス越しに自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、先日マネージャーを断った女の子がおどおどしながら立っていた。
少しイライラしながら話を聞いてみると、吾郎君のいる三船東が練習試合を申し込みたいと伝言を伝えてきた。
(・・・・・もしかして)
「君・・・、伝言を頼みたいんだけどいいかな?僕の言葉をそっくりそのまま伝えてくれないかな?」
「は、はい!」
女の子は嬉しそうに頬を染めていたけど、今はそんな事どうでも良かった。
数分後
相変わらずピッチャーの球を受けていると、背後からザワザワした気が近づいてきた。
でかい声で喚いている。
「クスッ」
(本当に君はわかりやすいな〜。その考えも声も)
背後のフェンスが乱暴に開いて、吾郎君がキャプテンを出せと言ってる。
本当にわかりやすい。
(どうしようか、どんな顔すればいいかな?睨み付けるのがいいかな?それとも馬鹿にした笑みの方がいいかな?)
そんな事を考えながら、いつも人にみせる愛想の良い顔を作って振り向いた。
振り向く瞬間、手の先が甘く痺れる。
「相変わらずわかりやすい人だね。吾郎君は・・・!」
吾郎君は衝撃を受けた顔をしていた。
そう、それでいい。この後もっと吾郎君には絶望を味わって貰うんだからね。
吾郎君は一言も発しず、ポカーンと馬鹿な顔のまま突っ立てる。
その横で小さい・・・あれは三船リトルで吾郎君と一緒だった、小森君だったかな?彼も驚いている。
(・・・・そうか、小森君がまた君の恋女房なんだね・・・・)
そう思うとチクリと胸が痛んだ。
だけどその痛みもすぐに消えて、吾郎君と勝負することになった。
マスクを小森君がかぶり、マウンドに吾郎君が立つ。
ミット構えた小森君がチラッと僕を見た。
僕はあえてその視線を無視して、吾郎君に目を向けた。
吾郎君は射るように僕を見ている。
(僕だけを見ている・・・)
たったそれだけでゾクゾクする。
この感情は何だろう?
一気にバットを振り抜き、カーンといい音をさして、吾郎君のボールを遙か彼方に運んだ。
マウンドで吾郎君が信じられない、と言う顔をしている。
僕は吾郎君の球の弱点を知っている。正直あんなにすごい球を投げていた吾郎君が、と思うとがっかりした。
ムキになって何球もボールを投げてくる。
気持ちがボールに乗る吾郎君を煽って、最後には素手でボールを掴むというパフォーマンスまでやって見せた。
吾郎君はがっくりとなってマウンドを降りた。
当然練習試合はキャンセル。
仲間たちが次々と僕のバッティングを褒める。もう誰も吾郎君を見ていない。
褒める仲間たちの間から、僕だけが吾郎君の後姿を見ていた。
吾郎君は一度も僕を振り返らなかった。
小森君がマスクとミットをそっと返して、トボトボと帰る吾郎君に駆け寄り、隣に並んでそっと背中に手を置いた。
(!!)
その瞬間、ズキリと胸が痛んだ。
小森君は吾郎君にしきりに何か話しかけ、吾郎君はそんな小森君に視線を向けて小さく頷いている。
小森君の手は吾郎君の背中にまだあって、ポンポンと慰めるように叩いてる。
小森君の手が吾郎君に触れる度に、ズキリズキリと心が痛む。
訳のわからない怒りが込み上げて来た。
(・・・・許さない。吾郎君・・・いや、あのバッテリーごと三船東を潰す!)
***
あれ?これ続きもの?原作でMOEを追ってたら続きもの?に
それにしても 寿 也 黒 い ('∀`*)
原作で帰ってきた吾郎を見て、寿也喜ぶと思ってたんだけど、あの反応にあっれ〜?@@;でした
もう小森に嫉妬しとけばいいよ!何気に寿也→吾郎←小森に萌えるよ!旦那を取り合う妻たちv
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