「愛しさと憎しみは表裏一体なのですよ」の続きです
↑タイトルなげーよ

***


「僕だけ見てよと叫ばして」



僕が吾郎君のボールを滅多打ちした後、三船東と宝仙の試合を見に行った。
もう終盤になっていて、吾郎君のピッチングはゆっくり見れなかったけど、あの棒球がすぐに直るとも思えなかった。
それにしても、三船リトルとの試合を思い出すような、熱くるしくて、劇的で、ミラクルといっていい勝ち方だ。

何より、チームの皆が吾郎君の周りに集まって、彼の言葉と気持ちを真っ直ぐ貰って答える。
一人一人に声を掛けて、肩を叩いて、とびきりの笑顔を向ける。
僕にはあの二人でキャッチボールしてた時以来、向けられることのない笑顔。
同じ時間、同じ空間、同じ思い、同じ敵に向かって戦う仲間への笑顔だ。
ライバルである僕には、決して向けられない笑顔。

(悔しい・・・)

何がどう悔しいのか、どうして悔しいのかわからないけど・・・。
これ以上、チームの皆に囲まれる吾郎君を見たくなくて去った。




数日後、僕たち友ノ浦は中央と試合をした。
この日は好調で、自分でも良いプレイが出来たと大満足だった。
仲間たちとワイワイ今日の試合内容や次の試合の話をしながらグラウンドを出ると、不健康そうな親父と背の高いすらっとした女性が立っていた。
その親父から青武館が敗れたと聞かされた。
しかも、吾郎君がノーヒットノーランで降したと・・・。

衝撃をうけていると、親父が名刺を差し出してきた。
そこには自分が欲しくて欲しくて止まなかった肩書きが書かれていた。
“海堂高校野球部 スカウト部チーフマネージャー”

(!!!来た!!!)

倉本たちは気を利かせて、嬉しそうにそそくさと帰っていった。
少し握った手のひらが汗ばんでいる。

(まさかこんなに早く声を掛けられるなんて!!)

僕を良い選手だと褒めてくれた。いやがおうにも期待が高まる。
だけど親父、もとい大貫さんの次の言葉に全身に凍りついた。

言っている意味が良くわからない。吾郎君がなんだって?
僕と吾郎君どちらか一人が海堂に?海堂を諦めろ???
それってつまり僕はいらなくて、吾郎君が欲しいって事?

目の前が真っ暗になって、いつ大貫さんと別れて、どうやって家まで帰ってきたのかもわからなかった。
ただ一つの事をグルグル考えていた。


(吾郎君が海堂へ・・・僕は海堂に行けない・・・吾郎君には才能があって・・・僕にはそれがない・・・吾郎君は誰からも必要とされてて・・・・僕は誰からも必要とされてない)
(海堂が欲しいのは吾郎君・・・吾郎君・・・吾郎君・・・吾郎君・・・)


ふいに宝仙の試合終了時に、チームメイトに囲まれて笑う吾郎を思い出した。とてもキラキラ輝いてた。

僕の中で何かが切れた。




数回の呼び出し音の後、茂野さんが受話器に出た。
丁寧に名乗り、吾郎君と変わってくれるようお願いした。
受話器越しに聞く吾郎君の声。僕が突然電話した事に驚いてる。

「賭けをしようよ・・・」

君の周りのキラキラしたものを全部壊してやりたい。
君もここまで落ちて来いよ!




三船東と試合の前、吾郎君が僕を控え室に呼んだ。
「だから、俺は海堂何か行く気最初っからないんだよ!あんな賭け出されたって、こっちはこれっぽっちも得はねーの!」
「へえ、だから?」
冷たく返事を返せば吾郎君はたじろぐ。
まさか僕が君にこんな冷たい態度を取るなんて、夢にも思ってもみなかったんだろうね?

甘いよ。

「それにしても、君が弁解何かするとは思わなかったよ。てっきりヘソ曲げて何も言わず挑んでくると思ってたけど?」
「誰がヘソ曲げるって!!・・・・これは・・・その・・・。」
吾郎君は目を逸らして、頬をポリポリ掻いた。
昔から困ったときの吾郎君の癖だ。
「・・・小森がどうしても言って来いって言うから・・・。いや、小森に言われたからだけじゃないけどさ!!」


「へぇ・・・小森君が?吾郎君、小森君と仲・・・良いんだね?」


自分でも底冷えする声を出してるなと思った。案の定、吾郎君はびっくりしてこっちを見た。

「と、寿?」

目の裏が真っ赤に染まる。頭がガンガンして、言葉では言い表せない思いが渦巻く。
その後一方的に話して控え室を出た。

後ろから吾郎君が怒鳴ってる。僕をぶっ倒すと、どっちが上かハッキリさせると。
吾郎君が僕を見てる。
その眼差しは怒りだけど、僕だけを見てる。
今日は最高の試合が出来そうだ。




プレイボールの合図から試合は始まった。
吾郎君は試合前からイライラしてる様が良くわかる。
君の性格は知ってるさ。

そんな君の性格を的確に突いて、君の心とプレイを乱す。
ただ、君の球のキレと君の馬鹿さ加減を見誤ってたぐらいで、僕の一方的な試合になってきた。

僕の一つ一つの行動に、吾郎君の視線を感じる。
僕の一つ一つの言葉に、吾郎君が反応する。
君の恋女房じゃなくて、敵の僕を見てる。

ニヤリと笑うだけ、手を軽く上げるだけ、仲間に役に立たないアドバイスを教えるだけ、それだけでも吾郎君は僕を見て、反応してくれる。
今このグラウンドの中で、吾郎君が見ているのは僕だけ。
背筋がゾクゾクする。


(このまま、ずっと僕だけ見てればいいのに・・・)


「た、タイム!」
小森君が吾郎君に何か言ってる。だけど無理さ、君ぐらいのキャッチャーの言うことなんて聞かないよ。
だって、君が一所懸命話してる今でさえ、吾郎君の視線は僕のもの。
それが堪らなく嬉しくて、口の端をニヤリと吊り上げた。

その時、小森君が吾郎君の頭にボールを投げつけた。

「いつまで相手のキャッチャーばっかり気にしてるのさ!!本田君のキャッチャーは僕だろ!?」

(!!・・・・吾郎君のキャッチャーは・・・・小森・・・君・・・・)
その言葉に、胸の底がジュクジュクと痛む。


痛い。


「今は僕だけのミットを見て投げろよ!!本田君は寿君にも試合にも負けるつもりなの!?」

胸が痛い。罪悪感とかじゃない、心が痛い・・・。




吾郎君のピッチングが目に見えて良くなった。
だけど、そうはいかないよ。
吾郎君が打席に立つ時にまた煽る。
今度は冷静なフリしてるけど、きっと君はミスをする。
ほら、これで終わりだ!

−−−−−カーン−−−−−−

(!!!!???)

ゆっくりと吾郎君がホームベースに戻ってくる。
ありえない!ありえない!!

出来るだけ冷静なフリをして話しかける。
「・・・・読んでたのか」
「え・・・・?俺どんな球打ったっけ?」

(!!!)

吾郎君は僕なんて見てなかったんだ。
勝手に対等だ何て思ってたけど、本当はずっと上にいたんだ。
じゃあ僕がやって来たことは何だったの?

どうすればいいんだ?どうすれば・・・。
そんな事を考えてると、あっという間に三船東に逆転されてしまった。
完璧に流れも空気も三船東に行っている。

僕じゃ無理だ・・・。僕は吾郎君みたいになれない・・・。

そんな暗い雰囲気の中で、倉本が吼えた。
「バカヤローーーー!!!!!」
(!!!???)
「寿一人におんぶにだっこで、勝てると思ってんのか!!」
倉本・・・。
「あきらめるな!!!!」

(!!!)

そうだ、僕は何をやってるんだ!
僕の打席が回ってくる。吾郎君から大きな気が迫ってくる。だけど負ける気はしない。
僕は僕だ!吾郎君じゃない!僕は何の為に野球をやってるんだ?
お金の為?プロになる為?違う!
僕はあの日、吾郎君から野球の楽しさと、熱さと、温もりを教えてもらった!
だから僕は野球をやるんだ!!

−−−−−カーン−−−−−−

(勝った・・・)

この後、守りぬけば友ノ浦の勝ちだ!もうスカウトとかどうでもいい!この試合に勝ちたい!
吾郎君に勝ちたい!!




その後、試合は僕にも予想外な展開になっていった。
まさか、あそこであんな事になるなんて、そして僕がマウンドに上がるなんて・・・。

僕のことは僕が一番知っている。
打席は小森君。彼ならきっと僕の球の弱点に気づいてるはずだ。
吾郎君の球を指摘したあの場所にいた君なら。

だけど、どうしても小森君にだけは打たれたくなかった。
吾郎君のキャッチャーである小森君にだけわ・・・。

もう自分の気持ちに気づいてる。
どうして小森君と吾郎君を見てると胸が痛むのか、どうして悔しいのか・・・。

(僕は君が羨ましい・・・。吾郎君の球を受けれて、励まして、喜べて、慰めて、誰よりも吾郎君の近くにいる、君が羨ましい!)

だから、せめて吾郎君と勝負させて?
彼が見つめてくれるのは、この時しか僕にはないから!

打席に吾郎君が立つ。僕と目線が合わさって、譲れない勝負を挑む。
指の先が甘く痺れる。

−−−−−カーン−−−−−−

僕の指先の横をボールが飛んでいく。
先を見なくてもわかる・・・・。伸ばした腕を下ろせずにいた。
ただ心に思うことは

(・・・・吾郎君・・・・)

君の名前だけ。



***


だーーーーー!!!!長い!!!
しかも途中自分で、これ書いてていいのかな?って思うほど寿也が暗い!
でもアニメジャで、あの電話シーン見た時から、寿はSだと思ってたv
あのSぷりにドキドキしちゃったよ!
あと小森の台詞は、最高だと思う!恋女房vうふv(きもい
ラヴって何?多分次ので変態入るくらい(今もある意味変態)寿君が見れるといいね?


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