「そろそろ心臓に穴開きそうだよ?」



ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ
毎朝二段ベットの下から規則正しく目覚ましが鳴る。
「ぅ・・・ん・・・」
傍らにある目覚ましに手を伸ばし、音を止めると、前触れもなく目をパチッと開いた。
長年祖父母と暮らしていたため、朝は自然と早く、目覚めも良い。
体を起こして、背伸びを一つする。
佐藤寿也 起床。



布団からそっと出ると、そのままベットに足を掛けて上の段を覗く。
そこには寿也の想い人が、気持ち良さそうにスヤスヤと寝息を立てている。
薄く開いた口から涎を少し垂らし、毛布をギュッと両手でしっかり抱いて寝ている。

どうやら抱き癖があるみたいで、放って置くと真冬でも上に被ってる毛布を剥いで抱き枕にするので、わざわざ抱き枕専用の毛布をもう一枚調達してきたのは寿也だ。
おかげで今日もバッチリ毛布を被って、専用毛布を抱きしめている。
(かわいいな〜吾郎君v もし僕が一緒に寝たら、毛布の変わりにぎゅってしてくれるのかなv)
自己中で横柄で、口を開けば「うるさい」部類の彼に、こんな可愛い癖があるなんて、同室になるまで知らなかった。

十分寝顔を堪能してから、吾郎の肩をゆする。
「吾郎君!朝だよ!ほら、起きて!」
「ん〜〜〜〜・・・・後5分・・・」
ちなみにこれで起きた事はない。
仕方なくいつもの様に、吾郎が抱きしめてる毛布を無理やり奪い取る。
「・・・・ん?」
突然温もりを奪われて、吾郎の手が毛布を探してパタパタ動く。

(かわいいv)

「吾郎君!朝練できなくなるよ!」
「・・・ん〜・・・あされん・・・・」
野球にだけは真面目な吾郎は、その言葉でやっとモゾモゾ起き出した。
それを確認してから、寿也はベットから離れ、自分のベットの毛布を整え、さっさとジャージに着替えだす。
吾郎はまだ覚醒してないらしく、ボーっと二段ベットの上にいる。



「・・・・ぉはょ。とし。」
大きな欠伸をしながら、寝起きの舌足らずな発音で挨拶してくる。
「おはよ!吾郎君v」
あまりに可愛かったから、今日もとびきりの笑顔で挨拶を返す。
(・・・寿の奴、今日も機嫌良いな)
寝癖だらけの頭をかいて、ベットの上から身軽に飛び降りる。
「吾郎君!飛び降りたら危ないって言ってるだろ!」
「大丈夫だって〜、そんな高さないしさ」
「そうだけど・・・失敗して、足挫いたりしたら大変でしょ?」
(相変わらず寿は慎重なんだよな)

伸びをしながら洗面台に向かっていると、着替えをすませて、ごそごそしてる寿也が後ろから声を掛ける。
「吾郎君。洗濯物まとめてるから、先に着替えてよ。それ、洗うんだろ?」
「あ〜?これ2日前に洗ったから、まだ大丈夫だろ?」
振り向くと険しい顔で寿也が睨んでる。
「・・・・・スイマセン。先に着替えます・・・・・。」
軽い潔癖症の寿也に逆らうと、後が怖いので素直に着替える。

それにしても、最近の寿也は少し変だ。
着替えの為に服を思いっきり脱いでいると、寿也とバッチリ目が合った。
寿也は顔を少し赤らめて、目をそらした。
何だかソワソワして、寿也らしくもない。
(・・・・大丈夫か?)
「寿。どっか悪いのか?」
「え?何が?」
「お前最近変だぞ?」
「そんな事ないけど?ほら、早く着替えなよ。」
寿也は目をそらしたまま、やっぱりどこか落ち着きがない。
目を合わせない寿也にムッとして、アゴを掴んで目線を合わせる。
「こっち向けよ寿!風邪じゃないだろな?」

次の瞬間、光速のデコピンをくらった。
「ぃだ!!」
不意打ちで、その場に尻を思いっきり打ちつけた。すごく痛い。
「〜〜〜〜!何すんだよ!いてえだろ!!」
あまりの理不尽さと、痛みで涙目になりながら睨むと、目の前にさっきと違って、ものっすごい迫力のある笑みを浮かべて仁王立ちしている寿也がいた。

(!!そんなにアゴ掴んだこと怒ってんのか!?)

「と、寿君?」
寿也は尻餅をついてる吾郎の腕を取って立たせ、半裸のままの吾郎に強引にTシャツを被せた。
「ほら、吾郎君。先に顔洗ってきなよ。僕、吾郎君の所の毛布なおしたいしさ。」
「え?別にそんな事やらなくていいって!どうせまた皺になるし!・・・それより怒ってんのか?」
ますます笑みを深めて、寿也は可愛く首を傾げた。
「怒ってないよ?それから、吾郎君何気に気づいてないけど、吾郎君の毛布なおすの僕の日課なんだよ?ほら、洗面台行った行った!」
寿也に背中を押されて洗面室に押し込まれた。

(怒ってんじゃん!つか笑顔こええよ!)



吾郎を洗面室に押し込んだ後、寿也はへなへなと顔を覆って座り込んだ。

(あ、あぶなかった〜〜〜〜〜!!!)

まさか吾郎の着替えをさり気なく(と思っているが、他人から見るとガン見の寿君)見てたら、吾郎と目が合うとは思ってなかった。
(しかもアゴ掴まれたし!顔、ち、近いよ!吾郎君!)
思い出して顔を赤らめる。
(極めつけに、デコピンした後の吾郎君!半裸で涙目上目使いって!誘ってるの!?まだ僕の気持ちすら言ってないのに!いいの!?)

自分を落ち着かせようと、吾郎の毛布の皺を伸ばして折りたたむ。
毛布を折る瞬間に、ふわりと吾郎の匂いがする。
それをおもいきり吸い込むと、胸がポカポカして不思議な程落ち着く。

(吾郎君の匂い・・・。太陽の匂いがする・・・。)

すっかりいつもの自分を取り戻した頃、洗面室からモゴモゴと吾郎が呼ぶ。多分、歯を磨いてるんだろう。
「とし〜。俺のタオルしらね〜?」
昨日綺麗に畳んだ洗濯物の中から一枚のタオルを取って持っていく。
「こっちあるよ。洗濯しといたから。」
「お〜」

この後、本日の吾郎の無自覚攻撃・第2弾が来るとは、この時の寿也は知らない。

合掌。


***



あらゆる意味で限界の寿君と、無自覚吾郎君
寿君は吾郎君の世話を甲斐甲斐しくしてればいいv
きっと彼は良妻w


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