「生まれた事に感謝する日」
僕は暗い闇の中にいた。
どっちを見渡しても闇・闇・闇
黒で塗りつぶされた世界で、僕は本当に僕なのかわからなくたっていた。
突然目の前がライトアップされた。
そのライトの中、3人の親子がこっちに背を向けて、仲良く手をつないで歩いていた。
僕はそれが誰なのかわかった。
「お母さん!お父さん!美穂!待って!」
3人は振り向かない。
「待って!!待ってよ!僕だよ!」
3人が足を止めた。
母親がゆっくり顔をこちらに向けると、父親、妹もこちらを向いた。
「・・・えっと、どなたさま?」
母親が困った様に尋ねる。
「知り合いの子かい?」
父親が美穂に尋ねる。
「ん〜ん。私知らない。」
「何言ってるの!?寿也だよ!」
「寿也・・・そういえば、死んだ息子がそんな名前だったような・・・。」
「え?息子なんか俺たちにいたか?」
「お兄ちゃんなんかいないよ?」
3人が口々に言う。
「いるよ!僕はここに!」
父親が顎に手をやって、う〜んと唸る。
「おい、やっぱりいないよ。もしいたら連れて行ってるだろ?」
「それもそうね。いたら一緒に連れて行ってるわよね。」
「そうだよ!いたら今も一緒に暮らしてるもん!」
そう言って、3人は大きな声で笑った。
そして一度も振り返らずに、手をつないで歩いていってしまう。
「!!!」
追いかけようとしても足が動かない。
足元を見れば、黒いコールタールのような、ネバネバした闇が絡み付いている。
助けを呼ぼうとしても声が出ない。
そのまま闇にズブズブと体が沈んでいく。
手を伸ばして、3人に助けを求めても、3人はもう豆粒程の大きさになっていた。
「!!!!!」
声にならない悲鳴を上げる。
もう肩まで闇に浸かってしまった。
それでも何かを掴むように手を上に伸ばす。
「!!!!!!!」
顎が浸かり。
開いた口から闇が押し寄せる。
鼻で息をしても、鼻からも闇が入ってくる。
(息が出来ない。苦しい。誰か!誰か助けて!!)
もう頭まで沈み、出ているのは伸ばした腕と手だけだ。
そしてふと思う。
(誰が助けてくれるんだ?両親にも捨てられた僕を、一体誰が必要としてくれるんだ?)
(いらない僕は、このまま沈んでも、誰も悲しまないんじゃないか?むしろ、僕は本当にいるのかな?)
そう思うと、抵抗することも馬鹿らしくなって、もがいてた腕も止めてしまう。
そのまま静かに、誰にも気づかれず沈んで行こうとしていた。
その時、指先に何か温かいものが触れた。
何だろう?と思う間もなく、それはがっしり手を掴み、ぐいぐいと上に引っ張って行く。
「・・・・や、・・と・・・・・や、・・・・・し」
誰かが何か言ってる。
(誰?)
さっきまで苦しくなかった息が、また苦しくなった。
バシッと何か衝撃があって、それから一気に光があふれた。
「寿也!しっかりしろ!」
誰かが、僕を呼んでる。
「は・・・はぁ、ひゅっ・・・は、はぁ・・ごほっ」
苦しい。息が、空気がうまく吸えない。
「寿也落ち着け!ゆっくり息をしろ!」
そんな事言ったって、わからない。わからない。
すると、僕の口に温かい何かが触れて、二酸化炭素が肺いっぱいに送られてきた。
少し楽になった。
「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・はぁ。」
呼吸ができる。苦しいのもなくなった。
僕は薄っすら目を開けた。
「大丈夫か?」
「・・・・・ご・・ろうくん?」
目の前に、吾郎君が心配そうに覗き込んでる。喉が痛い。
「苦しくないか?」
「うん・・・。僕、何?」
僕の返事を聞いて、吾郎君がホッとした顔をする。
「夜中に下から悲鳴がして降りてみたら、お前すごい苦しそうにしてて、息もあんまりできてなくて、何度も呼んだけど起きなくて、仕方ないからお前の顔殴った。」
そういえば、頬がジンジンする。
その場所に、吾郎君がそっと手を伸ばす。
「わるかったな。痛いか?」
僕はその手に手を添えて頬ずりした。
「うんん。痛くない。ありがとう・・・吾郎君。」
そう言うと、吾郎君はいつもみたいに、パッと花が咲いたように笑った。
「そうか!水飲むか?」
「うん」
それを聞いて、吾郎君が立とうとしたけど、ちょっと困ったように頬を掻いた。
「寿、手、離してもいいか?」
「え?あ!」
いつの間にか、僕は吾郎君の手をしっかり握っていて、それを慌てて離した。
かなり強い力で握っていて、吾郎君は相当痛かったはずだけど、何も言わずに笑って冷蔵庫に向かった。
それに、離してくれじゃなくて、離してもいいかって言ってくれる彼の優しさが嬉しかった。
「寿、ほれ、水」
僕はもぞもぞと布団から出ようとすると、吾郎君が背中に腕を入れて起き上がらせてくれる。
「吾郎君。気を使わなくていいよ!もう大丈夫だから!///」
照れくさくてそう言うと、そうか?って言って笑う。
ミネラルウォーターを受け取って、喉に流し込む。
冷たい水がとても気持ちいい。
吾郎君は何も言わずに、僕のベットにもたれて座ってる。
「・・・・聞かないの?」
「何を?」
「僕がうなされてた理由とか・・・」
「聞いて欲しいのか?」
「・・・・うんん。まだ・・・・もうちょっと・・・」
「そっか。」
沈黙が流れた。
時計の音がやけに大きく聞こえて、急に何時か知りたくなった。
時計に手を伸ばして時間を見ると、夜中の3時25分。
「吾郎君・・・寝ないの?」
「ん?寿は寝ないのか?」
正直今日はもう眠りたくない。また嫌な夢を見る気がする。
「今何時?」
「え・・・今3時26分」
「あ!!!!!!」
時間を教えると、吾郎君は大きな声を出して、ガバッと立ち上がった。
「!!????どうしたの????」
吾郎君は満面の笑みで振り向いた。
「寿!誕生日おめでと!!!」
一瞬何言われたかわからなかった。
吾郎君はそんな僕の様子に首を傾げた。
「今日、寿也誕生日だろ?」
「そ・・・うだけど、いいの?」
「何が?」
「だって!僕は・・・!」
(いらない子なのに・・・)
そう思うと、胸がギュッと痛くなって、胸のあたりの服を握った。
吾郎君は黙ってしまった僕にまた首を傾げて、それからベットに腰掛けると、僕をふわっと抱きしめた。
「!ご、ごご吾郎君!?」
いつも僕から抱きしめると、嫌がったり恥ずかしがったりする吾郎君が、自分から抱きしめてくれるなんて!
歓喜のあまり動揺してると、吾郎君の静かな声が肩越しに伝わる。
「そんな寂しそうな顔するなよ・・・。誰が何て言おうと、俺はお前が生まれてきてくれた事に、すげー感謝してるんだからな!」
「!!!」
思いがけない言葉に、自分の中で溜まってた何かが、堰を切って流れ出した。
「ご、吾郎君!う・・・うぁああ・・」
僕は吾郎君をぎゅうぎゅう抱きしめて泣いた。
大分落ち着いて、そっと吾郎君を離した。
目は腫れてるし、多分鼻も赤いと思うけど、僕は吾郎君の目をしっかり見た。
吾郎君の目は優しい。
「ありがとう・・・吾郎君。」
「おう」
吾郎君は照れくさそうに笑った。
「・・・・そろそろ寝ようか?まだ朝まで大分時間あるし・・・」
「そうだな、じゃあ、おやすみ」
そう言って吾郎君が立つ。
「・・・・・寿?」
「え?」
「・・・服・・・」
僕は吾郎君の服をしっかり握り締めていた。
「あ!ごめんね!」
「・・・・・」
また慌てて手を離すと、吾郎君は部屋の電気を消しに行った。
そのまま上に上るんだろうと思っていると、吾郎君はごそごそと僕の布団に潜り込んできた。
「ご、吾郎君!??」
「寿、せめーからそっち詰めて。」
「う、うん?」
言われて壁際に詰めると、吾郎君はモソモソと寝心地のいい場所を探してピタッと止まった。
それからオズオズと僕の背中に手を伸ばして、胸の辺りに刷り寄った。
「吾郎君?」
「きょ、今日は特別なんだからな!」
僕の腕の中から小さな声で吾郎君が言う。布団からちょっと覗いた耳が、暗闇の中でも真っ赤なのがわかる。
「!うんvvv」
僕はぎゅっと吾郎君を抱きしめ返して、ふと駄目元で言ってみる。
「吾郎君vおやすみのキスはないの?v」
吾郎君は何も言わない。
やっぱり、さすがにそこまで虫のいい話はないと諦めてると、吾郎君が真っ赤な顔をヒョコッと出して、僕の唇にチュッと音を立ててキスをした。
それから慌てて布団の中に顔を入れて、よっぽど恥ずかしかったのか、ぎゅうぎゅう抱きついてきた。
(あああぁぁぁああvvv吾郎君vvvvv)
今日は今までで一番最高の誕生日だ!
・・・とりあえず、今夜は別の意味で眠れなさそうだ。吾郎君は早くもスースー寝息を立てている。
この代償は朝になってから払ってもらうからねv
そっと吾郎君の髪にキスをした。
***
寿也、誕生日おめでとう小説☆
シリアスから甘々目指してみました^^
それにしても、ちくしょー吾郎!!うっかり書いてる本人萌えちゃったよ!
基本的に寿君の叫びは私の叫びですv
後、最近トシゴロとゴロトシの境目がわからn・・・
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