「ケンカは駄目だよ」
「ねぇ?吾郎君って喧嘩強いの?」
自分たちの部屋で、2人まったりしていた所、寿也が唐突に聞いてきた。
「は?何で?」
「うん。この前買い出しの時に、小森君と偶然あってね、中学時代の話になったんだ。そしたら吾郎君の話になってね。」
「えっ!!小森に会ったのか!?元気そうだったか?」
俺がそう聞くと、寿也に足をぐりぐり踏まれた。
「いってぇ!何だよ!」
「別に?ただ、やけに嬉しそうだからね?ついね?」
寿也は笑ってるけど、足踏まれた後にその笑顔こえぇから・・・。
しかも、俺何も悪くねえ・・・だろ?
「で?」
少し笑顔を引きつらせながら先を促す。
「あ、うん。それで当時ワルだった山根君、以下2名をボコボコにして手なずけたって聞いたけど。」
『そうなの?』っていう風に寿也が小首を傾げる。
俺は頭をガシガシかいて、天井を仰ぎ見る。
「あ〜・・・。」
中学生の自分と仲間達を思い出す。あれからそんなに時間は経ってないのに、妙に懐かしい。
そんな吾郎を寿也はじっと見ている。
「・・・へへっ。小森の奴大げさに言いすぎだっての。」
そう言うと寿也に向かって笑いかける。
「山根は元野球部だったから体力あったけど、牟田と及川はただのチンピラだったからな、寿でもやり合えば勝てるぜ?」
「そうかなぁ、やった事ないからわからないよ。そういえば、吾郎君夢島でも児玉と喧嘩してたよね?隣からガラスが割れる音がして、児玉が落ちるの見た瞬間ビックリしたよ!さいわい吾郎君の手がガラスで切れたりしなくて良かったけどさ。気をつけなきゃ!」
「はぁ?気をつけろったって、夢島のは俺は悪くねえぞ!児玉の野郎が俺をリンチしようとしたからやったんだ!ほら、あれよ、せーとーぼーえーってやつだよ。」
「正当防衛ね。吾郎君ちょっとは勉強しなよ・・・。でも、窓から落とさなくても良かったんじゃない?」
「あれは・・・。足元が畳だったから滑ったんだよ・・・。いいじゃねえか!今は児玉君ともオトモダチなんだからさ!!」
「まあ、そうだけど・・・。でも、やっぱり怪我とかするし、駄目だよ。」
このまま小言モードに入りそうだったので、慌てて話しを変える。
「と、寿也はないのか?」
「喧嘩?う〜ん、殴り合いの喧嘩はないね。周りにそんな人いなかったし、痛いし、下手したら怪我するし、だたい殴り合いになるほど怒った事ないんだよね。」
「マジで?1回も?優等生か?でも、お前見た目可愛いし、からんで来る奴とかいたんじゃね?」
「えっ、可愛い?吾郎君そう思う?」
「お、おう・・・;」
急に詰め寄って聞いてくるからビックリしてしまった。
「そっか・・・ふふv」
そう言って、頬を少しピンク色に染めてモジモジしている。
・・・・ちょっと・・・・気持ち悪い・・・・。つか、可愛いって言われて嬉しい・・・のかな?
そんな寿也をじっと見ていると、何を思ったか慌てて訂正してきた。
「あっ!からんで来る奴なんていなかったからね!僕には吾郎君だけだよv」
何でそう恥ずかしいセリフをサラッと言うかなぁ〜///。
照れる俺を、今度は寿也が見ている。何か悔しい。そんな時、ふとケンカで思い出した。
「あれっ、そういや・・・。」
「何?」
「俺、ケンカした奴と結局ダチになってんだよな。児玉もそうだし、山根も牟田も及川もだろ、あと沢村もそうだ。」
「沢村って?」
「あーリトルの時に髪はねてた奴知らね?そいつとも色々な・・・。でもあいつがいたから、小森とも知り合えてんだぁ〜・・・。」
「・・・ふ〜ん・・・」
しみじみ言ってると、寿也のワントーン低い返事が返ってきた。チラッと見ると、さっきまで嬉しそうに笑ってた人物と同じとは思えない寿也がいる。
「ト、トチ君?」
「そうやって虜にしていくんだね・・・。だったら、もうケンカは駄目だよ。」
じりじりと距離を詰めて来る。
「な、何言ってんだよ!ダチだって!」
寿也が近づく分下がっていたが、ベットでこれ以上下がれない。
「吾郎君はそうでも、向こうは違うかもよ?」
「そんな訳あるかよ!わかった!わかったから!何跨ってんだよ!!」
「ふふっ。もう遅いよv吾郎君のせいだかれねv」
「何でだよ!ってうぁ・・・あぁあ!!」
厚木寮の一室から悲鳴が今日も聞こえる。
この話しはここで終わりだと思ってた。というか、こんな話しをした事も忘れていた。
俺は薄暗い路地で3人の男に囲まれていた。
「てめぇら!たかがゲームに負けたくらいで因縁つけてんじゃねえよ!!」
久々に寿也と街に出て、ゲーセンに寄ったけど、喉が渇いたって言って寿也はジュースを買いに言ってしまった。
暇だった俺は、人だかりが出来てる格闘ゲームの台に座り、何となく対戦待ちの相手に挑戦した。
それが得意なゲームで、運も良かった。相手のしょぼいミスの隙を突いてコンボを決めてK.O。
ギャラリーの歓声の中、相手にへへっと笑ってやると、切れた相手に路地に連れ込まれ今に至る。
「うるせぇ!俺はアレでもうすぐ記録だすとこだったんだよぉ!それをてめぇが!!」
「っへ、負けたのはお前が弱ぇえからだろ」
「やろぉお!腕の1,2本へし折ってやる!!」
「やれるもんならやってみな!」
野球で鍛え上げた自分の体が、ゲーセン通いに負けるはずないと高をくくって笑ってると、3人の内の1人が近くに転がっていた空き缶を思いっきり蹴り飛ばした。
空き缶は俺の後ろの壁にあたって、カランと虚しい音を立ててまた転がった。
よく見ると、空き缶を蹴った男は、黒いTシャツの上からでも分かる程、盛り上がったいい体をしている。
嫌な予感がする・・・。
俺の視線に気づいたゲーム男が、薄ら笑いを浮かべる。
「あっ、こいつボクシング部のエースだから。」
ボクシング男はニヤッと笑う。
「・・・へへっ、あぁそうかよっ!!」
俺はそう言うと同時に、ボクシング男と反対にいる男を蹴り飛ばし、輪から抜け出そうとしたが、この時自分のまぬけさを呪った。
よりによってボクシング男が蹴った空き缶を踏んでしまい、前のめりにずっこけてしまった。
「だああぁぁ!」
背後から3人の馬鹿笑いが聞こえる。ちくしょぉ〜!!
俺は後ろを振り向いて、できるだけ可愛く笑った。
「わはは。オチがついたとこで、このケンカはなしってことで・・な〜んてねぇ〜。」
「そんなわけねぇだろ!!」
「わわ!ちょっと待て!!」
尻餅をついてる俺に、ボクシング男が思いっきり殴ろうとした時、背後から声がした。
「吾郎君!!」
路地の角から寿也が飛び出してきて、俺に駆け寄った。
「吾郎君!大丈夫!?」
寿也は俺を立たせる。3人は突然の乱入者に動きを止めている。
「寿、どうしてここが・・・」
「そんな事より、怪我は!?あっ!」
「?」
寿也は俺の左手を取ったまま固まった。見れば手のひらに小さな擦り傷があった。多分、さっきこけた時のだろう。
「あ、これさっき 『吾郎君、向こうに行ってて?』
説明を遮って、寿也がにこりと笑い、路地の角へ俺の背中を押した。
「え?でも、あいつらが」
3人も俺も突然で、わたわたしている。
「いいから、ね?」
にこにこ笑って、有無を言わせない態度で俺は角に追いやられる。角を曲がって、俺の視界から3人が消えた。
その際「何があってもこっち来ちゃだめだよ?」と念を押して。
「おい、てめぇ!俺たちが用があるのはあっちの奴なんだよ!出しゃばるとその可愛い顔がボコボコになるぜ!」
「・・・よくも吾郎君の大事な左手を怪我させてくれたね?」
相手の言葉を完全に無視した寿也の声が聞こえる。
「はぁ?何言ってんだよ、あれはあいつが勝手にすっ転んで・・っひ!」
ゲーム男の小さな悲鳴が聞こえる。
(なんだ?)
「どうでもいいよ。そんな事。」
静かな底冷えするような寿也の声を皮切りに悲鳴と怒声が聞こえた。
(寿也はああ言ったけど、隠れてなんていれねえよ!相手は3人だぜ!)
助太刀しようと、角を曲がろうとした足が止まる。
「ふふふ、もっと鳴きなよ。」
(・・・・怖っ!!)
寿也の不気味な笑い声と、男達の悲鳴が角の向こうから聞こえる。
俺は行くのを止めて、その場にしゃがんで、耳を塞いだ。
(俺は何も聞いてない。俺は何も聞いてない・・・。)
塞いだ耳から男達の「もう勘弁してください」というすすり泣く声を聞いた気がする。
いや、きっと気のせいだ・・・。
数分後、肩を軽くトントンと叩かれて顔を上げると、頬に血をつけた寿也が爽やかな笑顔で立っていた。
「もう大丈夫だから。」
「お、おぅ・・。寿也血が・・!」
俺が慌てると、それに気づいた寿也が頬の血を拭う。
「大丈夫。返り血だからv」
「そ、そっか・・・。」
えへへと笑う寿也に言い知れぬ恐怖が沸く。
「もう、吾郎君ケンカは駄目だよ?」
「う、うん・・・。」
なんで居場所がわかったのかとか、あいつらどうなったかとか、もうどうでもよかった。本気で・・。
寿也は擦り寄ってきて、左手に愛しそうにキスをした。
「帰って手当てしないとね。」
「いや、そこまで・・・。」
「駄目」
「・・・はい・・・」
この話しにはもう触れたくない・・・。
***
寿也最・強・伝・説
児玉君の心配もしてあげてください。寿君。
香代さん、こんなツッコミどころ満載の小説でよければお持ち帰りください。
相互ありがとうございました〜^^
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