「2人の戦いを生温かく見守る」




「・・・」
「・・・」

顔はあくまでにこやかに、火花を散らす2人の間で、さすがに冷たい空気に気づいた吾郎がオロオロする。


どうしようかと考えてると、大河がこちらに向いてにこりと笑う。
「吾郎先輩。そろそろ行きましょうか。佐藤先輩は、吾郎先輩の顔を見に来ただけらしいですし?もう用はすんだでしょ。」
するりと吾郎の左腕に自分の腕を絡ませて、ピッタリ吾郎に体をくっつけると、そのまま寿也を放って連れて行こうとする。
だが、寿也も連れて行かせるわけもなく、吾郎の右腕をがっしり掴む。


「吾郎君?どこ行くの?」
そっと頬に手を添えて、にこりと笑って瞳を覗き込む。吾郎の顔が赤くなる。
「///えっと・・・その・・・今日は大河ん家に・・・遊びに約束してて、それで・・・」
強引に寿也と吾郎の間に体をねじ込んで大河が引き離す。

「そういうことです!じゃあ!佐藤先輩、すいませんね!前から約束でしたもんね?吾郎先輩?」
「お、おぅ。寿、ごめんな?」
申し訳なさそうに、吾郎自ら今だ掴まれてた腕をそっと外す。



(勝った!!)



大河がそう内心ガッツポーズをとって、さっさと吾郎を連れて行こうとした時、後ろからポツリと声が聞こえた。



「・・・吾郎君・・・」



哀れみを誘うような、絶妙なつぶやきだった。
吾郎の足がピタリと止まる。


「吾郎君・・・。せっかく君に会えるの楽しみにしてたのに・・・。吾郎君はそうじゃなかった?嬉しくない?」
「あ・・・寿・・・。」
寂しげな顔をすると、吾郎の性格上放っておけないのを知ってて作ってるのだ。
「ちょっと!ヒキョーっスよ!」
「何が?僕は本心を言っただけだよ。」
しれっと寿也が言い放つ。
さすが心理戦を得意とするキャッチャー、というか吾郎の事になると卑怯技も平気で使う。


「吾郎先輩!まさか約束破ったりしませんよね?男の約束だ!って言ってましたよね?」

「え、そりゃ・・当然・・・だろ?」


「吾郎君。僕がどんな想いで君を海堂から送り出したか知ってるよね?会った時ぐらい、僕に時間割いてくれてもいいんじゃないの?」

「う・・それ言われると、そうだけどよ〜・・・」


「先輩!」
「えっと・・・。」


「吾郎君。」
「うぁ・・・。」


じりじりとさっさとどっちか選べと吾郎に詰め寄る。
当然2人とも譲る気はなく『こっちだよね?』という迫力ある目で見ている。


「うう・・。だーーー!!わかった!じゃあ3人で遊ぶか!な!」


「「え・・」」


「いいだろ?な?・・・ダメ?」
眉をハの字にしながら、上目使いで手を合わせてお願いする吾郎。


((かわいいv))


2人の心がシンクロした瞬間だった。




左腕に大河、右腕に寿也がピッタリくっついている。
「な、なあ・・・。離れて歩かねえか?」


「嫌だよ。」
「嫌です。」


吾郎はため息をついた。こうなったら自分じゃこの2人に適うはずがない。
1人でも大変なのに、それが2倍。無理。絶対無理。

「先輩。ゲーセンでも行きますか?」
左から大河が言う。
「おぅ。そうだな。」

「ゲーセン・・・始めてかも・・・。」
右からぽつりと寿也が言う。
「マジっスか?始めて見ましたよ、そんな人。」


「・・・友達いなさそうっスもんね・・・」
大河がボソッと言う。


ばっちり聞いてしまった吾郎は焦る。
「と、寿は・・」
次の言葉を遮って、右から黒い笑顔を寿也が見せる。


どこからか第2ラウンドを告げる鐘が鳴った気がした。


「ははは。そんとこ行ってるより吾郎君と2人っきりでキャッチボールする方が楽しかったからね。まぁ君にはわからないだろうけど。」
「・・・吾郎先輩、今度2人でキャッチボールしましょうよ。」
「君には吾郎君の球取れないよ。」
「取れますよ。」
「ふ〜ん?じゃあ、しっかりプロテクターしときなよ。怪我するよ。」
「・・・そうですね、そうします。怪我でもして吾郎先輩と野球できなくなるといけませんし?まぁ、違うチームの佐藤先輩にはカンケーないっスけどね!」


吾郎を挟んで激しい火花が散る。


間に挟まれている吾郎は青ざめている。


(ヒイイイイ・・。つか帰りてぇ!!!)


残念ながら吾郎の心の叫びは2人には届かなかった・・・。


***


超毒舌戦。どっちも引きませんよ!
こういう3人の関係って和みますよ・・・ね?


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