「サマーアイス」
聖秀高校野球部。
今日も練習が終わって、部員がガヤガヤと出てくる。
その中に、皆に手を振りながら笑う吾郎と、その隣に大河が当然のように連れだって出てきた。
「じゃーな!田代、鍵よろしくな!」
ドアを出て、また振り返り、まだ部室にいる田代に声をかける吾郎に、少しムッとしながら制服のニットベストの端をクイクイ引っ張る。
「せ〜んぱい。今日俺の家に来るンスよね?早く行きましょーよ。」
「あぁ、わりー。じゃあ行くか!」
そう言って二カッと笑い、大河の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「わっ!先輩、ちょっと、やめてくださいよ!」
「あはは。」
大河は文句を言いながら髪を直してるが、顔を少し赤らめて嬉しそうに口を綻ばせている。
初めをツンツンしていた大河も、吾郎にすっかり懐いて、帰りはもちろん、昼食も最近一緒にとっている。
吾郎も吾郎で、自分を慕ってくれる後輩を可愛がっている。
そんな仲の良い2人を、こっそり見ている者がいた。
海堂高校野球部4番 佐藤寿也。
ちょうど練習が休みで、たまには愛しい吾郎君の顔でも見ようと、聖秀高校に来てみたが、野球部がどこで練習しているのかわからず遅くなってしまった。
やっと見つけたものの、練習は終わり、部員達は部室の中へ…。
さすがに他校生がノックして訪ねるのは気が引けたから、吾郎君が校門に来るのを待っていた。
遠くから吾郎君の姿が見えて、びっくりさせてやろうと陰に隠れていたら、信じられないものを見た。
(吾郎君!?何なの!?そのチビは!!)
さっきは吾郎(だけ)しか見えなかったけど、吾郎の影にあのチビがいたに違いない、2人はすごく仲が良さそうだ。
しかも、チビの方は明らかに自分と同じ目で吾郎を見てる!
怒りが沸々と沸いて来た。
(渡さないよ…他の何を譲っても!)
居ても立ってもいられず、思い切り吾郎の背中にタックルした。
「わっ!」
背中にすごい勢いで誰かがぶつかって来た。
「吾郎君!」
振り向かなくてもわかる。寿也だ!
久しぶりだし、すごく嬉しかったけど、大河がいる手前ぐっと我慢した。
「と、寿也!どうしたんだ?」
吾郎的には我慢しているらしいが、周りから見れば明らかに喜んでいる。
その素直な反応に、寿也はにっこり笑う。
吾郎が自分に会いに来てくれるのも嬉しいけど、吾郎のこの全身で喜びを表現してくれる姿が堪らない。
しかも、我慢してると思い込んでるところが可愛い。
「今日は練習が休みだったからね。だから、吾郎君の顔を見にv・・・・ところで君、誰?」
吾郎の時とは明らかに違う笑みを浮かべながら大河を見る。
第1ラウンド開始。
大河も負けずに寿也を睨み返す。
「清水大河っス。よろしく佐藤先輩。」
棒読みで挨拶する大河。
「へぇ、僕のこと知ってるんだ?嬉しいよ。こちらこそよろしくね、大河君。」
こちらも社交辞令の見本のような挨拶を返す。
そんな2人の様子をまったく気にしてない吾郎が紹介を続ける。
「こいつ、清水の弟なんだ!それに横浜リトルに入ってたんだって、寿知らねえか?」
にこにこ笑い、大河の頭を撫ぜる。大河はくすぐったそうに笑った。
「・・・ごめんね。まったく覚えてないよ。どこ守ってたのかな?上手い選手なら印象あると思うんだけどなぁ〜・・・。本当にごめんね?」
あはは☆と可愛いらしく笑う寿也。
「・・・いえ、別にいいッスよ。佐藤先輩、その頃から吾郎先輩に夢中だったし・・・。相手にされてなかったっスけどね・・・。」
真夏にブリザードが吹いた。
このまま2人の戦いを生温かく見守る
もう一人犠牲者を作ってみる
***
選択式です