「もう一人犠牲者を作ってみる」
校門の影で田代は固まっていた。
落ち着こうと、今日あったことを最初から順序良く思い出してみる。
今日朝曇っていた。
予報では40%の確立で雨と言っていたけど、自分は自分に賭けて傘を置いてきた。
昼までヤバイほど曇っていた。
(おかげで今日は教室で飯を食った。)
でも部活が始まる時には、すっかり晴れて、いつも通り練習できた。
その時清水が妙に浮かれてて、茂野にまとわりついていた。
それと、用具を運んでる時にすれ違った女子が、他校生の人がろついてたと話してた。
(まさか、あの佐藤だったとはな。)
まあ、その時はそんな事どうでもよかった。
今日も茂野の足を気にしながら、何十球と球を取る。一番楽しい時間だ。
急速も制球も大分良くなった。足の方も痛そうにしてる所は見ない。
今の所安心だ。
一日が終わって、今日は鍵当番だった。
茂野と清水が一緒に帰るのはいつもの事で、しつこく『後は、よろしくな』と言う茂野にテキトーに返事する。
(案外奴はこういう所に細かい)
全員帰ったのを確認して山田に鍵を渡す。
「明日、ノゴロー君に少し話しがありますから、来るように伝えてください。」と言われる。
(あいつ、もうノゴローで通すのか?)
一応吾郎ですと訂正しておいた。
今日もなかなか良い日だった。
ここに来るまでは・・・。
チラッと3人の様子を窺う。
・・・・・・カオスだ。
局地的ブリザードと暗雲で、生身の人間(つまり俺)が近づける所じゃない。
親父が言ってた。
災難を振り払えるのは、その場で臨機応変に対応できる奴だって。
その言葉を信じるなら、俺はここをそっと離れて、別の門から帰るべきだ。
だけどそれが出来ない。
原因は2人に挟まれてオロオロしてる茂野だ。
もう一度ゆっくり覗く。
無言でにこやかに睨み合ってる2人の間で、泣きそうな顔に茂野がいる。
(何やってんだよ!あいつは〜!)
顔を引っ込めて、門に背中を預けて頭を抱える。
(どうする?正直、睨みながら笑ってるあいつらが怖ええし、関わりたくもない。だけど、あいつと俺はバッテリーだ。それを見捨てて逃げてもいいのか!?あいつが困ってたら助けるのが俺の、女房としての役目だろ!」
顔を上げ、盛大なため息を一つつく。
また確認してみると、今度は2人に腕を掴まれて青ざめてる茂野がいる。
目をキョロキョロさせて、明らかに助っ人を探してる。
(あ〜も〜ちくしょう!)
今から帰りですという風を装って門の影から出ると、即行茂野と目が合った。
パーッと顔を輝かせ、2人の手を解いて、こっちに向かって手を振りながら小走りに来る。
「おー!田代〜!!」
茂野の後ろから2人の刺し殺すような視線も来る。
「よ、よう。茂野先に帰ったんじゃなかったのか?」
俺は普通の神経の持ち主なんだ。笑顔が引きつるのは勘弁してくれ。
「お、おう。まあな・・・。」
茂野が近づけば近づくほど、目線で助けてくれと訴えてるのがわかる。
ふと気づくと、佐藤が茂野の斜め後ろにいた。
気配しなかったぞ!お前!!!
茂野が次に何か言う前に、佐藤がにっこり笑って(ただし黒い)挨拶してくる。
「こんにちは、始めましてかな?佐藤寿也です。」
「あ、ああ。知ってるよ海堂の4番だろ?俺は」
「田代君でしょ?僕も君を知ってるよ。新しい恋女房ができたんだって、吾郎君が言ってたから。」
「君、吾郎君をちゃんとリードできるの?」的オーラがビシビシ来る。
その佐藤の隣で清水は睨んでるし、早くここから逃げ出したい。
どうすればいいんだ?怖えぇ・・・。
「そうそう、今はこいつとバッテリー!寿にはわりーけど、俺ら2人で海堂ぶっ倒すから覚悟しとけよ!なっ、田代!」
わははと笑って宣戦布告する茂野。
「・・・あぁ、そうだな。」
ちょっとは空気読めよ!とか思うけど、何とも言えないくすぐったい気持ちが溢れて来て、少し俯く。
その時俺の“何かわからないけどヤバイセンサー”がビビビっと反応した。
恐る恐る佐藤を見て俺は固まった。茂野も固まった。
清水はいつの間にか消えていた。
佐藤が笑顔で(でも目が完全に笑ってない)俺たちを無言で見ている。
ただそれだけなのに寒気がしてきた。
何かの地雷ふんじゃったああぁぁああああ!!!!!
「・・・フフフ」
「ととととと寿君!!??」
「!!・・・し、茂野!山田が何か呼んでたぞ!!!!」
「!! マジで!?俺もそんな気がするぜ!!」
ガシッとお互い肩を組んで、Uターンして全速力で走り出す。
「おい!茂野さっきの佐藤何だよ!?」
「知らねーーよ!!」
「何かやっただろ!?」
「はぁーー??お前何見てたんだよ!何もやってねーーだろ!!」
ギャーギャー言いながら、足だけは止めない。後ろも見ない。絶対見ない!
これで俺も晴れて佐藤のデスノート入り決定だ。
「はぁ〜・・・」
隣を肩を組んだまま走る茂野を見る。
部活の後で、しかも佐藤を怒らせて逃げてるってのに、茂野は何が嬉しいのか楽しそうに笑ってる。
夕日が茂野の顔の輪郭を照らす。
「・・・はぁ〜あ!それでもいっかぁ!!」
「あ?何がだよ?」
「何でもねーよ。このまま甲子園まで突っ走るか!」
俺がでかい声で言うと、茂野はますます笑みを深めた。
「おう!まかせとけ!!」
***
とんだ青春ドラマだよ・・。
田代とのバッテリー実は一番好きかも!超亭主関白で!
それにしても、寿君怒らす為とはいえ、あの台詞は駄目でしょ!ごろちゃん!
あと、先生を呼び捨てにしてはいけません。
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